2006年 12月 25日
イギリス民謡の謎
最近は「ブリテン」諸島の近代音楽を聴くことが多い。小生のいうところの「ブリテン諸島」とは、アイルランド、スコットランド、ウエールズ、そしてイングランド、・・・つまり小さな島々をも含めた国。それらを統合してそう呼ぶことにしている。
皆さんも知っての通り、多くのブリテン諸島の近代音楽家がこぞって取り上げる素材としての民謡は、「アイルランド民謡」「スコットランド民謡」「イギリス民謡」と分けることが多い。 エルガー、ブリテン、ホルスト、バックス、スタンフォード、ディーリアス、ラター、ハーティ、ウォルトン、タイラー、マッカン、フィンジ、ティペット、バターワース、バリー、アーノルド、アルウイン、ブリッジにウエッバー他ほとんどが「民謡』とされる素材を引用している。 しかし小生は、中でも「イギリス民謡」とされているものに、少し疑問に思っている。 それぞれあまり目立たないがいかにも、所謂「ブリテン」の人間らしく、古風でおちついた、メロディアアスな曲が多いのもその特徴でもある。 例えば有名な「グリーンスリーヴス」・・・「ヴォーン・ウイリアムス」の幻想曲で、皆さんもよくご存知のあの曲、「イギリス民謡」となっている。 しかしこの「グリーンスリーヴス」は、「イギリス」=「アングロサクソン」系の音楽に聞こえるだろうか? 小生にはどうしても納得がいかないのである。 「グリーンスリーヴス」は今のスコットランドと英国の国境付近で採取されたものというから、果たしてその出自がどこに帰属するかは不明なのだ。 小生の勘では、出自が良くわかっていないものを鳥居合えず「イギリス民謡」としたのだと思う。 この場合の「イギリス」は「ブリテン諸島」をあらわしていると言っても良いのだから、「イギリス民謡」と一般にされているものの中には明らかに、非アングロサクソン系・・・すなわち北方ゲルマン、あるいはケルトの血筋の民族のものがあるのではないかと思っている。 1970年代ヒットしたサイモンとガーファンクルの歌に「スカボロフェアー」という歌があるのをご存知の方も多いと思う。かなり長いある時期、ラジオでも良く流れていたし、レコードを購入したDRACの諸氏も少なからずいたと記憶している。 ただライナーノーツには「ポールサイモン」作曲と記されてあったから、小生も含め大部分の方はそのように思っていたはずである。 ところがこの元歌は「イギリス」のトラディショナル・・・すなわち古謡あるいは民謡であるというのが事実だ。この伝統歌をある時期英国の「トラディショナル」の歌手、「マーチン・カーシー」(Martin Carthy)がギターの弾き語りの曲としてアレンジしたもので、小生もこれを聞いたことがあるが、かなり斬新なコードを使っていて、「旋法」と「SUS、セブンスコード」・・・ギター特有のコードの付け方がマッチして、とても深みのある歌に仕上げてあった。 彼が歌っているのを当時英国に来ていた「サイモン」が、それをパクッ、こともあろうに版権を取得し、「自作」としてレコード録音し、発売たという事実があるのだ。 しかしここでは、モールサイモンが盗作をしたことを云々言うのではなく、この歌が「イギリス民謡」であるということなのだ。 なるほどその歌詞は、全てを書き込むことは避けるが、以下のように、全て4行詩から成り立っている。 <Scarborough Fair> Are you going to Scarborough Fair? Parsley, sage, rosemary and thyme Remember me to one who lives there For once she was a true love of mine. スカボローの市(いち)に行くのですか パセリ,セージ,ローズマリー,タイム あそこに住んでいる人によろしく伝えてください 私が真剣に愛した人に Have her make me a cambric shirt Parsley, sage, rosemary and thyme Without a seam or fine needle work And then she'll be a true love of mine ・・・・・・ 地図を見てみると、アイルランドスコットランド、ウエールズから総遠くない距離にあって、ロンドンほどではないがドーヴァー海峡の向かいはヨーロッパ大陸のケルトの地「ブルターニュ」地方であることがわかる。 この4行詩という形式は、文献によればその歴史を中世にまでさかのぼれるというから、形式的にはかなり古い歴史のあるものということが出来、内容からは少なくとも18世紀だという。 それは「cambric shirt 」が近代手工芸での生産品だから、というのがその根拠である。 しかし一方「cambric shirt 」は、亜麻で作られた上着という解釈もあるから、そうなると、その歴史をもう少しさかのぼれることになるし、亜麻=麻=リネンは、現在でもアイルランドの主要産物アイリッシュリネンとして名高く、京都の「一澤帆布で」のトートバック(価格の高いほう)は、アイルランドから素材を取り寄せて製作している。 であるから、この場合の「イギリス民謡」とは、少なくとも「アングロサクソン」系の歌ではなく、ケルト系・・「アイリッシュ」あるいは「スコティッシュ」の伝統歌といっても良いのだと考えられる。 ところで、v封緘に出る「パスリー・セージ・ローズマリー アンド タイム」という響き皆さんも覚えていらっしゃると思います。 最初にラジオで聞いたとき小生は、「過ぎてゆく・・・結婚・・・時間が・・・ゆっくりと」という意味合いを歌っているものと勝手に解釈してました。 しかしこれは4種類の「ハーブ」を連ねたものでした。 このことにも驚くのと同時に、・・・・・ 「スカボローの市(いち)に行くのですか パセリ,セージ,ローズマリー,タイム あそこに住んでいる人によろしく伝えてください 私が真剣に愛した人に」 という最初の詩の不思議なことにも興味を覚えたものでした。 誰が誰に対して投げかけた言葉で、「4つのハーブ」が何故ポツンと、ここに登場したのでしょう? さてここからが推理です。 小生はこの元歌を「ケルト」系の伝統歌で、「所謂英国」の歌ではないと思っています。 スカボローとは現在の英国の都市です。 ですからこの歌は「スカボロー」という町に行く「誰かに」「誰かが」問いかけている歌であるということがいえます。 古い4行詩・・オールドバラッドでは、ヘルダーが採取し、「カールレーヴェ」が作曲した「オルフ殿」にしても同じヘルダーが採取し、ブラームスが歌曲と4つのバラードの一曲目にすえた「エドヴァルト」でもこの4行詩が使われれていて、誰かが誰かに問いかけをしていくというk利子木がとられています。「エドヴァルト」では、父親殺しをした息子に母親が「何をしたのだ」と問いゆめていき、ついに息子は父親を殺したことを白状するが、それは問い詰める母親にそそのかされたものとわかって、恐怖と驚きで終わる設定となっている。 ブラームスの二重唱の歌曲は、音盤がほとんどないから、小生も聞いたことはないが、「へルダー」が採取した詩と特にブラームスのピアノ曲は、手元にあって、小生は「ミケランジェリ」の鮮烈な演奏を好んで聴いている。 この曲にはブラームスが尊敬したあのベーオーヴェンの「運命の動機」のfレーズが10回以上出てくるし、そこに付けられた音楽の変化が母子の会話の進行状況と、ダッチするように聞こえるから、とても面白いものがある。そして曲そのものも素晴らしい。まだお聞きになってない諸氏は、是非お聞きになられることをお勧めします。「グールド」の演奏も定評があるようです。 つまり「問いかけと答え」で物語りが進行するのである。 「スカボロフェアー」もやはりその形式をとってはいるが、「問いかけ」に対しては誰も答えない。 形式からは「パスリ・セージ・・・・」という4つの「ハーブ」の名前を言うのが答えの部分である。 しかし答えはないのだ。 そこでまた推理なのだが、ここで問いかけているものは「魔界のもの」・・・ケルトで言えば「フェアリー」だがキリスト教では「悪魔」とされる存在なのではなかろうか? つまり キリスト教によって侵食された土地に太古から住みついていた・・・通常は深い森の中に住むフェアリー=ケルトの民が、行き場を失って=人々の・・・アングロサクソン人の土地になってしまったスカボロフェアーに行こうとする旅人に対して、謎かけのような問答を仕掛けているのではないか?問答するのは、どれも不可能なことばかりであることも、人間の仕業ではないことを象徴するようだ。 わが国の「かぐや姫」伝説と合致しているのが面白い。 問いかけされるものは、魔界のものに対して答えると・・・恐らく悪いことが、場合によっては死を招くことになるから、答えない。 そしてまるで魔よけの呪文のように「パスリー・セージ・ローズマリー・タイム」と、唱える。 「魔よけ」と小生が推理するこれらの4つのハーブは、ご存知の方もあると思うのですが、修道女で、音楽家、そして薬草の研究者としても知られる「ヒルデガルト・フォン・ビンゲン」の研究にも反映されているのらしく、いずれも「聖母マリア」にゆかりのある薬草という。 したがってこのおまじない・・・呪文は聖母マリアにお願いするものと推測ができる。 キリスト教によって「悪魔」とされていった古いケルトの神々の災いを回避するためのものと推理可能だ。 ブリテン諸島にはまだまだ完全にキリスト教化されてないところがあって、「スカボロフェアー」もそういう町であったのかもしれない。 あるいは、かすかな記憶・・・「悪魔」伝説として、民衆の間に伝わってきたのかもしれない。 「アンニーローリー」も定説のように、「スコット夫人」作曲となっているが、スコットランドかアイルランドの古謡を彼女が楽譜にしたまでのこと。原曲はアイリッシュの古謡「デザーテッド・ソルジャー」と「ランブリング・ボーイス・オブ・プレジャー」で「アンニーローリー」は2つをミクスして作られたものだと小生は推理している。とりあえず彼女の作としたのは政治的背景がたぶんにあったものと思われる。 歴史もそうであるが、小生たちが学校で習ってきた史実とされているものも、実は根拠が無く、現在ではかなり画訂正されているから、音楽の世界に小入も「定説」とされていることが、ひっくり返っても何の不思議も無いことである。 源頼朝も聖徳太子の顔もまったく根拠の無いものであった。 明治天皇も怪しい。 クラシックと呼ばれる世界では、レジュームチェンジなるものが、他のカルチャーと比べると、非常に遅いから、徐々にしか変わらないのだろうが、今後がまた楽しみである。 by sawyer 1967 in
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| 2006-12-25 12:40
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